科研費バッシングに応えて/無料電子書籍『架橋するフェミニズム』刊行しました!

科研費バッシングに応えて/無料電子書籍『架橋するフェミニズム』刊行しました!

 本研究(JSPS科研費基盤(B)「ジェンダー平等社会の実現に資する研究と運動の架橋とネットワーキング」JP26283013平成26-29年度 研究代表者 大阪大学牟田和恵)のまとめとして、無料で読める電子書籍(e-pub)『架橋するフェミニズム―歴史・性・暴力』を刊行しました。本サイトトップページバナーから、ダウンロードできます。
 本書では、どの章においても「慰安婦」問題や性と暴力の問題、それにとりくむ女性たちの運動について論じています。ジェンダー平等の実現と性暴力の根絶へ向って、今後の世代や運動に架橋しつながっていく一歩となることを、執筆者一同、心から願っています。どうぞお読みください!

 私たちのこの科研プロジェクトについて、3月初旬から、ツイッターをはじめとしたSNS上で、「科研費の不正使用」「悪用」「無駄遣い」「反日研究」「NPOとの結託」などといった、不当な攻撃を受けています。研究代表者である牟田個人への誹謗中傷や悪罵も数限りありません。
 私たちは、牟田はじめ共同研究者全員、日本学術振興会・大学の規程に従い予算執行しており不正使用などはまったくありませんし、採択された研究申請書に掲げた課題を、決して十分とは言えないまでも着実に実現していますので、悪用・無駄遣いとされるゆえんもありません。また、今般出版の『架橋するフェミニズム』のいくつかの章を含め、私たちの幾人かは、日本政府の「慰安婦」問題対応を批判する論文等を執筆していますが、それは膠着している「慰安婦」問題の解決を望み、人権をしっかりと保障する国家とはいかにあるべきか提示し、国際社会の一員として日本が国際的な人権レジームを積極的に支持する国になってほしいと願っているからこそであり、「反日」とされるいわれもまったくありません。
 また、認定NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)は、『架橋するフェミニズム』序にも記している通り、私たち執筆者の全員が何らかのかたちで活動に関与しており、その活動から、研究課題名の通り、「ジェンダー平等社会の実現に資する研究と運動の架橋とネットワーキング」の構想が立ち上がったのでもあります。ジェンダー平等をめざして研究する研究者が、市民として活動(WANに限らず)も行い、さらにそこから研究を発展させていく往還は、何ら問題ないどころか、現代の研究者としてむしろ望まれることではないでしょうか。なお、本研究は、WANとの関係について、WANからの協力を得ること・研究費の使用に関しては厳正を期すことを研究申請書に明記しており、その上で採択されていることを付記しておきます。
 また、本サイト「ウィメンズ・アクション動画発信ナビ」について、製作費が高すぎる、閲覧数が少なく無駄遣い、等の批判があります。製作費については、チュートリアルビデオ・サイトのいずれについても、私たちは、コンセプト、わかりやすさ、使い勝手、将来的なことも含めた管理のしやすさなど、種々の面でそれぞれの業者さんからアドバイスをいただき詳細な打ち合わせを繰り返して制作にいたっています。「もっと安く作れる」と批判している方々がどのような根拠でそうお考えなのかは不明ですが、ビデオやサイト制作の「最低価格」と単純に比較することに意味があるとは思えません。また、閲覧数に関してですが、本サイトは17年度末に公開していますが、科研費による研究期間終了後も活用していくことを積極的に意識して製作しています。本サイトに限らず、科研費研究課題の成果は、課題終了後も生かされていくことが望ましいはずで、ご批判は近視眼的ではないでしょうか。
 さらに付言すれば、冒頭にも書きました通り、『架橋するフェミニズム』は、研究成果のより広い公共への還元のために、誰でも無料で読める電子書籍として刊行公開しています。管見の限り、このような試みは、科研費の研究成果発信として先駆的なものだと自負しています。
 以上のように、本科研費に関する攻撃は根拠の無い、まったく不当なものです。無責任な中傷デマが流布されることは、牟田個人および私たち研究グループに対するだけでなく、科研費の交付元である日本学術振興会への誹謗中傷でもあります。こうした不当な攻撃に対して、私たちは、法的な措置も含めた対応を行っていく用意があることを申し添えておきます。

 科研費研究については、昨年12月に産経新聞が「結託する反日」シリーズの一環として、日韓歴史問題を扱っている科研費課題を「反日研究」であると誹謗する記事を出してから、これに呼応して通常から種々の差別発言を繰り返している自民党の杉田水脈衆院議員が国会で取り上げ、ネット上でも「反日」研究叩きが始まりました。私たちのこの科研プロジェクトに対する攻撃も、その流れにあることは間違いありません。
 こうした攻撃は、憲法23条の定める学問の自由に反するものであり、研究に携わる者として決して看過できません。さらに、私たちへの攻撃は、学問の自由の問題であるだけではなく、ジェンダー研究・フェミニズムへの攻撃であり、女性差別のあらわれであると私たちは考えています。じっさい、上述杉田議員は、最近のツイート(2018.3.18)で、科研費データベースを「慰安婦」「フェミニズム」で検索するよう発言して攻撃を扇動することさえしています。同議員は、SNSでの影響力もさることながら、自民党内や文科省へますます圧力をかけていくであろうことが予想され、かつて男女共同参画社会基本法の制定への反動として行われた「ジェンダーバッシング」の再来が深く懸念されます。
 ジェンダー研究の発祥以来、アカデミアにおいても、「ジェンダー学なぞ研究ではない」「フェミニズムは取るに足りないイデオロギーである」という貶めは長く続いてきました。そのなかで先達フェミニストたちの努力により徐々にジェンダー研究の意義と意味が理解され始め、科研費の中にも「ジェンダー」カテゴリーが設定されるに至りました。現代日本社会でジェンダー平等がなかなか進まないことは、ジェンダー研究者にとって大いなる課題ですが、まさにこうした攻撃自体が、ジェンダー研究の必要性を強く示唆しています。こうした歴史や現状を考えれば、私たちは、攻撃に屈することなく、ジェンダー研究の自由と自律性を維持しさらに発展させていかねばならないと思いを新たにしています。皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
 なお、同じく本研究課題の成果の一環として、「慰安婦問題は#MeTooだ!」と題したショートムービーを製作中です。本研究のなかで私たちは、性と身体への侵害に長く沈黙を強いられながらやっと声を上げた元「慰安婦」女性たちの声と、それから4半世紀後の#MeTooで、意に反した性行為はレイプであると訴える現在の女性たちの声は、まっすぐに通じていると感じています。ムービーは、本サイトにて近日公開しますので、こちらについてもよろしくご注目ください。

2018年3月23日
牟田和恵 大阪大学大学院人間科学研究科教授
古久保さくら 大阪市立大学人権問題研究センター准教授
伊田久美子 大阪府立大学人間社会システム科学研究科教授
岡野八代 同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
他、JP26283013研究グループ/『架橋するフェミニズム―歴史・性・暴力』執筆者一同

こんな動画ができました!